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東京地方裁判所 平成12年(ワ)2938号 判決

原告 長岡日出雄

被告 国

右代表者法務大臣 臼井日出男

右指定代理人 岩田光生

同 鈴木秀幸

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、金五万円及びこれに対する平成一二年二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要及び当事者の主張

本件は、国に対して別件の損害賠償請求訴訟(東京地方裁判所平成一一年(ワ)第九〇六九号事件。以下「別訴」という。)を提起していた原告が、民訴法一六三条所定の当事者照会を行ったが、国の指定代理人によって違法に回答を拒絶され、その結果損害を被ったと主張して、損害賠償を求めた事案であり、原告の主張は別紙一記載のとおり、被告の主張は別紙二記載のとおりである。

第三当裁判所の判断

一  原告の主張は、別訴において国の指定代理人であった公務員が、別訴において原告の行った民訴法一六三条所定の当事者照会に対して、原告が指定した平成一一年六月一四日の回答期限までに、意図的に回答しなかったことが違法であり、原告に対する不法行為に当たるというにある。

二  しかしながら、民訴法一六三条所定の当事者照会の制度は、訴訟法上設けられた制度であって、同条が照会に対する相手方当事者の回答義務や回答がされない場合の措置について何ら規定していないことから窺われるように、訴訟の当事者に対して、実体法上の権利又は利益を付与するものではないと解するのが相当である。したがって、当事者照会に対して回答がされなかった場合においても、当事者照会を行った当事者の実体法上の権利又は利益が侵害されたということはできず、不法行為が成立するものではない。

三  以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邉左千夫)

別紙一

一 原告は、別件の国家賠償請求訴訟(東京地方裁判所平成一一年ワ第九〇六九号事件。以下、「別訴」という。)に関し、民事訴訟法一六三条及び民事訴訟規則八四条に基づく照会書(甲第一号証)により、平成一一年五月三一日付けで、別訴の原告として当事者照会を行った。それに対し、別訴の被告指定代理人であった上記公務員は、下記二のとおり「意図的に」同年六月一四日の回答期限までに回答しなかった。この行為(不作為)は、明らかに民事訴訟法に違反する不法行為に相当する(期限の約二月経過後になされた回答が無効であることについては、下記三のとおり)。

二 原告の照会は、「被告は甲第二号証の回答(回答拒絶)が民事訴訟法第一六三条に違反するものであることを認めるか否か」という一項目だけの簡単なものである。しかも、なんら特別の調査を必要とするものではないから、原告は、回答の期限を約二週間後の別訴(一審)第一回口頭弁論期日(平成一一年六月一四日)とした。

ところが、当日の法廷においても回答書が提出されなかったので、法廷での審理中(したがって、以下の問答は、形としては別訴裁判官を介してのもの)、原告が竹野清一代理人に照会書の受領を確認した後「回答しないのか」と尋ねたのに対し、同代理人は、「回答する必要がない」と答えた。

更に第二回口頭弁論期日(同年七月一九日)の法廷において、原告が再び照会への回答について質したのに対し、今度は栗原壮太代理人が「回答する意思がない」と明言した。

以上により、上記公務員の不回答が「意図的」であったことが明らかである。また、それは、別訴第二回期日当時、すでに回答期限を大幅に経過していたことからも、確認される。

三 ところが、不可解なことに、上記公務員は、別訴第三回口頭弁論期日(同年八月二三日)の直前に至り(八月一四日)、突如、甲第三号証の準備書面と共に、甲第二号証の回答書を原告に送付した。しかし、この回答書は、次の理由により、別訴における原告の照会に対する回答としては、無効である

<1> 回答期限から六〇日(照会からは七五日)も経過していること。

<2> 法廷において、再度、裁判官の面前で「回答する必要がない」、「回答する意思がない」等と表明していること。すなわち、その時点で「回答拒絶」が成立している。

<3> 上記の法廷における上記公務員の発言は、原告が(別訴原告)準備書面(一)(平成一一年七月一二日発送)により、(回答がなければ)「別途、法的措置(新たな民事訴訟の提起、懲戒申立て等)を執る」と警告した後になされたものであること。

<4> 甲第二号証の回答内容(別訴での回答拒絶を正当とする)から、期限内に回答することが不可能であったとは、とうてい考えられないこと。

四 以上のとおり、原告は、上記公務員の違法な行為により、別訴の追行を不当に著しく阻害されたうえ、一国民として法務省のエリート官僚に対する信頼を裏ぎられるという精神的損害を蒙った。それに対し、被告は、金五万円の損害賠償金を支払うのが相当である。

別紙二

被告の主張

1 原告の本件請求は、原告からの本件照会に対して、被告が回答を拒絶したとし、民事訴訟法に違反する不法行為であり、同行為により別件訴訟の追行を阻害されるとともに、精神的損害を被ったので、その賠償を求めるというものである。

しかしながら、当事者照会制度が設けられた趣旨は、当事者が主張及び立証を準備するため必要な事項について、当事者が相手方から直接情報を入手することを可能とすることにより、的確かつ効率的な争点及び証拠の整理を可能とするにあり、その根拠は、当事者が、訴訟を適正かつ迅速に完結させるため相互に協力すべき関係に立っていることにある(法務省民事局参事官室編「一問一答新民事訴訟法」一六四ページ参照)。

すなわち、当事者照会の制度は、純然たる訴訟法上のものであって、訴訟の当事者に対し実体法上の権利・利益を付与するものではない。したがって、照会者において相手方からその望む回答が得られなかったとしても、そのことから直ちに、照会者の実体法上の請求権が侵害されたものということはできず、損害を生じるものではないのであって、原告の本件請求は、損害発生について、誤った前提に基づくものといわざるを得ず、それ自体理由がない。

なお、民事訴訟法上も、裁判所が回答を命ずることや回答拒絶に対する制裁等、回答を強制する規定はおかれていないことからすると、当事者照会に対して望む回答を得られなかった場合には、当該当事者は、進んで、裁判所に対して求釈明を求め、あるいは他の立証手段によって、当該訴訟手続内における主張、立証あるいは裁判官の訴訟指揮等を通じて対処すべきであり、このことを民事訴訟法自体が予定している(前掲「一問一答新民事訴訟法」一六六、一六七ページ、塚原朋一ら編集「新民事訴訟法の理論と実務」上巻四三四ページ各参照)のであって、これとは別に照会の相手方に対し、損害賠償を請求するようなことは、そもそも法の予定しないところというほかない。

2 なお、念のため、本件照会に対する被告の対応の適法性についても主張しておくに、民事訴訟法一六三条は、「当事者は、訴訟の係属中、相手方に対し、主張又は立証の準備をするために必要な事項について」、当事者照会をすることができるとしており、そして、照会の必要がある事項というためには、照会者が主張立証責任を有する主要事実及びこれを基礎づける主要な間接事実について主張立証を準備するために必要な事項あるいは相手方が主張立証責任を有する事実の不存在を示す主要な事実について主張立証を準備するために必要な事項でなければならない(塚原朋一ら「新民事訴訟法の理論と実務上」四二九ページ参照)。

したがって、照会にかかる事項が、主張又は立証の準備をするために必要な事項には当たらない場合には、当事者照会を受けた側がこれに回答しなかったとしても、そのことが民事訴訟法上も違法といえないことは当然である(乙第六号証九ページ参照)。

この点、別件訴訟は、当事者照会に対する回答拒絶が違法であることを理由とする国家賠償請求であり、原告に損害を認めることはできないことは前記1と同様であるから、原告の損害賠償の請求が主張自体失当であることは明らかであり、別件照会の違法適法を論じるまでもないことであって、原告が回答を求めた事項は、別件訴訟において主張立証の準備をするために必要な事項に当たらないことが明らかであった。

しかしながら、別件訴訟の第二回口頭弁論期日において、担当裁判官が、別件照会に対する被告の回答の適法性について判断する旨発言したことから、このような別件訴訟の審理の経過に鑑み、被告は、第二回口頭弁論期日の後、別件照会への被告の対応の適法について主張を準備するとともに、本件照会に対して、平成一一年八月一三日付けで、原告に対し、「平成一一年八月一三日付け被告準備書面記載のとおりである」旨回答を行った(甲第二、第三号証)ものである。

このとおり、本件照会に対しては、回答を要しないものであったが、被告としては、別件訴訟の審理の状況に応じて、別件訴訟の第二回口頭弁論期日の後、被告の対応の適法性について主張を準備するとともに、その旨原告に回答したものであって、いずれにせよ、本件照会に対する被告の対応に何ら違法はない。

右のとおり、原告の本件請求は、失当であることが明らかであるから、速やかに棄却されるべきである。

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